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先見日記

先見日記とは 先見リメ[ス

2003 Dec 19
斎藤かぐみ
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忘れられたモルドヴァ
自宅にて

 ユーラシア大陸のはるか西方、黒海の向こう側にモルドヴァという国がある。石油も出ないし宇宙基地もないし、旧ソ連の中でもいちばん知られていない国かもしれない。でも、この国のニュースは個人的には気にかかる。友人がいるからだ。

 ヨーロッパにまだ鉄のカーテンが破れた興奮がうっすらと残り、長いこと12カ国だったECが15カ国のEUに変わろうとしていたころ、留学先でともに国際問題を学び論じたクラスメートの半分は旧東側からやって来ていた。ルーマニアの大学で仏文学を教える女性、外交官を志すチェコの男性ジャーナリスト、史学部を卒業したばかりのハンガリーの女の子など、年齢もバックグラウンドも多彩な彼ら彼女たちは、新しい時代を担おうとする熱意にあふれていた。

 モルドヴァの彼は文化省の役人だった。言葉が同じルーマニア出身者たちとは、なんとなく微妙な関係にあったように思う。つまり、もとは同じ国だったのにスターリン時代にソ連に無理やり組み入れられ、独立後もいまいちヨーロッパの輪からはずれたモルドヴァのひけめ、1993年当時はまだEU加盟候補国としてチェコやハンガリーと同列に並んでいたルーマニアの軽侮や憐憫といったことだ。

 この国の貧しさは、彼の金銭感覚からも察しはついた。同じ1フラン、当時のレートで20円かそこらの価値が、出身国によって雲泥の差があった。クリスマスに寮にわびしく残った何人かでレストランに行こうと決めたときも、何十フランなら皆にとって痛くないかが大問題だった。後に一度だけフランスで奥さん連れの彼と再会したときも、彼女が妊娠中だというので反射的にお祝いを述べたら、それにしても生活費が心配だと、こちらの軽々しさを咎めんばかりの溜息をついた。

 2001年に共産党の政権復帰があって以来、久々に知ったモルドヴァのニュースは、あんまり心ときめくものでもない。ロシアがこの年末までに部隊を引き揚げるという約束を2020年に先延ばしして、そのかわりロシア系住民が多いドニエストル地域の分離独立は認めない約束をするというのだ。これらはロシアとモルドヴァを連邦化するというアレンジとセットになっているため、ルーマニア系の住民は大反発している。

 人口が500万人もいない国で、数万人が首都キシナウでデモをしたという。彼らの望みはロシアの一部ではなく「ヨーロッパ」の一員となることだ。やがてルーマニアのEU加盟が実現すれば、今度はモルドヴァの西側に新たなカーテンが引かれ、またもや繁栄から取り残されてしまうからだ。

 世銀の統計によれば、2002年現在で一人当たり国民所得は162位。それ以下の国がまだ40いくつかある。ごく最近の報道が伝える個人の平均月収は30ユーロ相当。単純に計算すれば、西ヨーロッパの物価に対する金銭感覚は、日本人と100倍ほども違うことになる。

End


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