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ハトとカーナビ
1年間研究生活を送ったオックスフォードは、中世の面影を色濃く残す大学都市でロンドンから日帰りの距離にあることもあって、観光コースにも入っているらしい。映画ハリーポッターシリーズの撮影に使われたクライスト・チャーチなど、確かに観光客の姿が絶えないが、わたしはそうした古い建物よりもその建物の中庭から地平線まで連続して行く、豊かな緑に圧倒された。どこからどこまでが人工の園で、どこからが自然なのか判然としないくらい、自然が都市の内部へと貫いているのである。
したがって、ふだん町中で目にする動物たちの種類も非常に多い。まず気がついたのは、ハトの種類の多さである。ハトといえばパリでも東京でも、公園や教会、神社などを汚す灰色の鳥くらいにしか思っていなかったが、イギリスの田園地帯では、名前は分からなくてもすぐに5、6種類の明らかに大きさや羽の模様が違うハトがいることに気がついた。あるときはハトが群れをなして飛んでいる光景におやと思ったことがある。高速を運転中にハトの群れが、道路に沿うようにして飛んでゆく。これは自然が人工に寄り添っているのかな、と思っていたが、つい最近になって、そんなハトを十年以上も研究してきたグループがあると知って、さらに驚いた。
オックスフォード大学で動物行動学の研究を集めるティム・ギルフォード教授のグループは、伝書バトの行動を調べているうちに、これまでの常識を覆すような事実を発見することになった。英語には「カラスのように飛ぶ」という表現がある。「最短距離で」という意味であるが、ハトについてもまさしくA地点からB地点まで直線のコースを最短コースで飛ぶのが、「帰巣本能」であろうと信じられてきた。ところが伝書バトの行動を調べると、どうもそうではないらしい。群れの行動を追跡してみると、なんと鳥たちは高速道路に沿って飛んでいたのである。
オックスフォードを通る高速はA34号線と呼ばれる道で、朝夕などかなり混雑する幹線道路であるが、ゆるやかな丘陵地帯を縫って伸びるこの道路沿いに飛んでいるのだ。驚くべきことに、高速を忠実に追うあまり、インターチェンジやロータリーの部分までぐるりと旋回して飛ぶハトもいるらしい。わたしたち人間と同じように、ハトたちも高速を使って移動しているのである。
ギルフォード教授のグループによれば、おそらくハトにとっては高速のような目立つ機能を使うほうが、「精神的に疲労が少ない」からだろうという。体内コンパスと地磁気などを利用する、本来のナビゲーション能力は、最初の飛行時や、はじめてのコースを飛ぶときに発揮されるが、それ以降は、環境のなかにある目印を使うようになる。おそらくそのほうが、脳の情報処理としては少ないエネルギーで飛べるからだろうというのである。
なるほど。ハトも人間もあまり変わらない。道がよく分からないとき、とりあえず高速に乗っちゃおうかということはあるわけで。かつては川や海岸線といった自然の標識を使っていたハトからすれば、高速道路というきわめて現代的な物体も、ひとつの標識として使っていることになる。研究グループは、動物の順応能力の高さを示すものとして注目している。
この研究、ハトの体に極小のセンサーを取り付け、GPSシステムを使って衛星によりトラッキングするという方法をとっている。つまりは、カーナビと同じシステムを利用することによって、解明されたわけだ。人間が気づかないうちに、ハトのほうが先に「高速ナビゲーション」を開発していたようで、どうも先を越されていたようですね。

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