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先見日記

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2005 Jun 14
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EU憲法条約の不思議(2)
パリにて

 6月11日、フロランスとフセインは157日間の勾留の後、解放されました。よかった! 12日、フランス到着直後の記者会見でフロランスは持ち前のユーモアのセンスを発揮したので、思わず笑ってしまった。久しぶりにフランスじゅうで上機嫌になれたなあ。

 さて前回は、フランスの国民投票でEU憲法条約が否認された理由のうち、目標がよく見えない、読みづらく長すぎるテキストを市民が拒否した点について話した。これまでの反民主主義的なEUのあり方、政治的意欲の欠如があらわれたテキストであると。この批判に対してウイの推進者は「それでもこれまでの条約よりずっとマシなんだ。欧州議会の権限を広げ、基本的人権憲章を組み入れて民主主義的にするのに、すっごく苦労したんだから」と反論した。うん、それはたしかにそうなのだ。

 歴史をふりかえると、第二次大戦後に二度と戦争が起こらないようにという願いから生まれたヨーロッパ統合への歩みは、いつでも経済が軸だった。1951年の欧州石炭鉄鋼共同体に始まり、防衛共同体には失敗したけれども57年のローマ条約で翌年には欧州経済共同体(EEC)が発足し、以後もおもに経済協力をとおして統合が進められた。マーストリヒト条約(92年)、アムステルダム条約(97年)、ニース条約(2000年)とつづき、EU加盟国は25に増えてユーロが12か国で使われるようになったが、ブッシュの戦争に対する各国政府の態度をみてもわかるように、共通の外交や政治は遅々として進んでいない。進んだのは、欧州中央銀行の設立とインフレ・国費の赤字を抑える通貨安定政策、そして90年代以降はとりわけ、電力・ガス・電話産業の民営化をはじめ、グローバリゼーションの波にのったネオリベ経済政策だ。

 こうして、第1部第3条の「目標」の中に市場の自由競争が明記され、経済政策が長々と展開された憲法条約ができてしまったわけだ。哲学者のエチエンヌ・バリバールは、この憲法条約が欧州中央銀行、つまり金融に最高権限を与えている点が問題だと指摘する。そもそも経済政策を憲法に記すのはおかしい、憲法は経済政策を選べる民主性(変更の可能性)を保障すべきだと言う経済学者も大勢いる。おまけにこの憲法条約は、改正がひどく難しいのだ。一方、左翼のウイの人たちは、この憲法条約で政治的統合を強化することによって、社会保障が促進できるはずだと主張したのだが、「社会保障について書いてあるときには必ず『自由競争の害にならない範囲で』と制限されている」と反駁された(「EU憲法に反対する12人の経済学者」のサイト)。

 そして、なにより一般市民が不安に思ったのが、EU内の安い労働力のせいで失業者が増えるのではないかということだった(先週あげた項目の4番)。ここ数年来、フランスやドイツの工場を閉めて、もっと人件費の安い東欧やインド、中国などに工場を移す「デロカリゼーション」のニュースが絶えない。最近では、従業員をルーマニア(もうすぐEUに入る予定)に移住させて現地の格安賃金を払おうとした企業や、フランス・テレコムがポルトガル人を安く雇う下請けに工事をまかせていたことなどがニュースになった。季節農作業や土木工事をはじめ、さまざまな職場でEU内からの「人材派遣」を出身国の安い賃金で働かせる雇用者が大勢いることが、にわかに認識されたのだ。昔から不法滞在の移民を闇で安く雇う雇用者はいたし、外国からの「人材派遣」には受け入れ国の労働法をある程度適用しなくてはならないという96年のEU指令もあるのだが、労働監査官の人数も予算も足りないため、現実にはほとんど野放しになっていることが露呈してしまったというわけだ。

 社会保障の低い国が有利になるこの「ソーシャル・ダンピング」を批判したノンの人たちは、ウイ陣営から外国人排斥だと非難された。経済学者のルネ・パセらが指摘するように、EU内で労働条件・社会保障と税制を調和させないかぎり、企業は税金と人件費のより安い国に移動し、人材派遣を濫用して外国人を安賃金でこき使うんだよ、と警告したつもりだと思うんだけど。そして、市場の自由競争をオウムのように繰り返すこの憲法条約からは、EU圏全域に高い社会保障を確立しようという意志は見えてこない(ネオリベの観点に立てば、そんなことしたら工場は全部EU以外に行ってしまうから当然か。でも、そうやって第三世界と弱者を19世紀並の労働条件で働かせて株主をもうけさせ、たくさんの人間と環境を破壊する社会って何なのだろう?)。

 ところでルネ・パセは、ネオリベ思考のしみとおったこの憲法条約はすでに時代遅れだと言う。わたしたちは今、テクノロジー革命によって生産手段や生産関係が激変した世界に生きている。だから、人間を利潤計算の変数としか考えないネオリベ経済思考ではなく、環境の中で人間をとらえ、相互に作用しあう生体システムのように世界を考える新たな経済思想が必要だと言う。EUもひとつの生態系のようにとらえて、何のために生きるのかを考え、みんなでいっしょに生きていけるような関係を構築しようではないかと。
 目前の利益や欲求を追う人たちには理想主義に見えるかもしれないけれど、わたしにはこれが先見の思考として響く。勝ち組だの負け組だのという卑しい発想からはもういいかげん抜けて、ただの消費者ではない人間らしい生き方をしたいと思いませんか?

参考:12人の経済学者のサイト
ルネ・パセのインタビュー
ATTAC・ジャパンのサイトの参考記事

End

















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