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先見日記

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2005 Dec 27
飛幡祐規
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赤瀬川原平
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Jan 3

かわいそうなナルニア
パリにて

 ディズニーがまた余計なことをしてくれた。そう、『ナルニア国物語』の映画化だ(日本では来年3月封切り)。『ハリー・ポッター』の世界的大ヒット以来、青少年文学を大スペクタクル映画にして、『スター・ウォーズ』的にキャラクター・グッズなどに展開するとおいしい商売になることがわかったので、トールキンの『指輪物語』につづいて、C.S.ルイスのナルニア・シリーズに白羽の矢が立ったというわけだ。ディズニーは『シュレック』の監督を使い、子どもとファンタジー・ファンを狙うと同時に、メル・ギブソンが監督した問題作『パッション(キリストの受難)』(このサイトにある「真実」「事実」について、フランスでは歴史学者、神学者、キリスト教会などから批判・抗議が出て問題になった)の大成功に目をつけ、キリスト教信者に対してもキャンペーンをはった。その結果、アメリカ合衆国で封切りされた最初の週末に、6700万ドルの収益を記録したという。

 キリスト教信者、それもギブソンの映画に殺到したほとんど原理主義的な人たちをだしにするのは、子どもをターゲットにして儲けることより「えぐさ」度が軽いような気もする。子どものときに愛読した思い出の書が、人間は神につくられたと信じ、妊娠中絶を「悪魔のしわざ」とか言う人たちに熱愛されているのは、なんか不快だけれども。フロリダ州知事のブッシュの弟は先月、州の小学生に『ナルニア』を読ませたという(12月初旬の封切りに備えて? そういえばフロリダにはディズニーがあるんだね)。そりゃ『ナルニア』には天地創造やら復活やら、キリスト教の要素が溢れている。勧善懲悪の二元主義もまあ強い。ルイスはもとは無神論者だったが、友人トルキエンの影響でキリスト教信者になったそうだ。ふたりとも、イギリス二大名門大学の教授だっただけに保守的だし、彼らの世代の偏見にとらわれた部分もある。現代イギリスの代表的ファンタジー作家のフィリップ・プルマン(無神論者)は、勇敢な少女を主人公に、二元主義に陥らないもっと複雑な世界観を描いている(『ライラの冒険シリーズ』。宮崎駿についても同じようなことが言えるだろう)。でもまあ、おとぎ話なんだから、王さまや天地創造などが出てきて、善が悪に勝つのは当然ともいえる。それをおとなが崇めるのは、気味が悪いけれど。

 おとなのキリスト教信者がハリウッドのいいカモにされてもアーメンと笑っていられるが、子どもの欲求をやたらかきたてて儲けようとするやり方には、腹が立つ。おまけに、夢を与えるとか謳いつつ、これら商業的エンターテイメントは人々のイマジネーションを破壊しているのだ。だいたい、名作を映画化するとろくなことはない。ジェームス・ジョイスの短編『ザ・デッド/ダブリン市民』(ジョン・ヒューストン監督)のような例外があるにせよ、ほとんどの場合、映像はイメージを固定し、想像の世界を貧しくしてしまうと思う。それに、既にスペクタクル映画にイマジネーションを汚染された現代人が書いた小説なら、映画化もうまくいくかもしれないが、『指輪物語』のように複雑で厚みのあるファンタジーを映画の時間・空間的文法にはめこみ、追跡など特撮を駆使したゲーム的映像にアレンジするのは、あまりにもむごい。だから、『指輪物語』の愛読者の息子は映画を観にいかなかったが、本を読んでいなかったクラスの子たちは観にいき、高いグッズなども買った。映画を観た子どもがあとで本を読むかというと、ほとんどの場合ノーだ。

 『ナルニア』の場合はさらにひどい。フランスではなぜか、この児童文学の世界的古典が長いあいだ無視されていて、2001〜02年にようやく翻訳された。つまり、フランス人の親は誰もナルニアを読んでいないのだ。ガリマール社の青少年文庫から出た7巻は美しく読みやすい装丁だが、『ハリー・ポッター』の人気にはとても及ばなかった。ところが、1か月ほど前から本屋の青少年文学コーナーは突如として、『ナルニア』洪水に襲われた。7巻を1冊にまとめたぶ厚い版が新たに刊行され、絵本(映画の写真入り)や解説書など、映画の封切りに備えて大キャンペーンがはられたのだ。「1冊にまとめても意味がないし、表紙もよくない(映画のアスランの顔)。それにあんな重い本、読みにくいよ」と息子は言ったが、今週のベストセラー番付で3位を記録した。

 なるほど、みんなクリスマス・プレゼントに買ったんだね。フランスは日本とちがってえらくぶ厚い本がよくベストセラーになる。読書人口(本を読むのが好きでたくさん読む人)は少ないのだが、いや、だからこそ、年に一冊くらいぶ厚い本を買って読もうと思うのか、プレゼントにするには厚い本のほうが立派に見えるのか、厚い本を読むのが偉いと思っているのか、とにかくぶ厚い本が売れるのだ。子どもに本当に本を読んでほしいと考える親なら、7巻に分かれた文庫の『ナルニア』を買うだろう。あのぶ厚い『ナルニア』を買った人たちは、「ああこれ、映画もできて流行っているから、買ってやらなくっちゃ」とグッズのように思ったのだろう。ふだん本を読まない子どもが、こんな厚い本をいつ、どこで、どんな姿勢で読むのだろうか、という疑問は浮かばなかったのだ。そういう浅はかな人たちと、近年の出版業界の商業戦略によって、本は遂にグッズになってしまったのだ。泣けてくる。

 で、映画も大当たりしそうだ。12月21日の初日に30万人以上というニュースを耳にはさんだから、『キングコング』と『ハリー・ポッター4』をおさえて今週のボックス・オフィス(入場者数番付)の1位になりそうな勢い(全国900スクリーン以上で公開)。クリスマス休暇中とはいえ、3年前まで誰も知らなかった『ナルニア』のこの商業的成功(フランスではキリスト教信者向けのキャンペーンもなかった)は信じがたいというか恐ろしいというか……。こんな簡単に大勢の人がキャンペーンにのせられる社会になったら、なんか危ないよね。それにしても、リメイク、焼き直し、青少年文学の古典の映画化など、大手映画産業のイマジネーションの欠如は深まる一方だなあ。

End

















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