若者の力
パリにて
春先に多いあられやみぞれ、風を伴うにわか雨を、フランス語で「3月のジブレ」と呼ぶ。3月7日も、そういう冷たい雨が降っていたにもかかわらず、全国160か所で行われたデモには大勢の人が集まった。主催者側によれば100万人、警察発表でも40万人というすごい人出で、デモ隊の大部分を大学生と高校生が占めていた。
デモの目的は、26歳未満の若者を対象にした新しい雇用契約の法制化を阻止することだった。CPE(初採用契約)と名づけられたこの労働契約は、慢性的に高い若者の失業率を下げる名目で考えられた。昨年、フランスの若者(25歳未満)の失業率は22.8%(EU平均18.6%)で、全体の失業率9.6%の2倍以上に及ぶ。
で、経営者に若者を雇おうという気を起こさせるために政府が何を思いついたかというと、企業の社会保障負担額を免除するいつもの手に加えて、「採用強化期間」と呼ばれる2年間、理由を告げずに解雇できるという企業へのプレゼントだ。フランスの労働契約には正規の「無期限契約」のほかに、長期採用を望まない場合は「期限つき契約」や人材派遣会社の臨時雇いが使われるが、近年これら非常勤の採用がどんどん一般化して、雇用は不安定になっていた。そこで、無期限契約の一種としてCPEが登場したのだが、理由もなくクビを切れるのでは、試用期間が2年あるのと同じだ。若者は2年ものあいだ、いつ解雇されるだろうかとビクビクしながら働かなくてはならない。これでは、実質的に働く者の権利を制限し、つぎつぎと新入社員を使い捨てできる「労働法壊し」にほかならないと、労働組合は珍しく一致団結して反発した。
ド・ヴィルパン首相がCPE案を発表したのは1月16日だが、初めのうち世論と若者たちの反感はそれほどでもなかった。失業はフランスの慢性の病であり、若年層のために何かすべきだという思いは強かったのだ。おまけに、すでに昨年8月のバカンス中、CPEと似たCNE(新採用契約)が政令でつくられていた。従業員が20人未満の企業で新たに雇った者を同じく2年のあいだ理由なしに解雇できるというもの(CPEは20人以上の企業に適用され、雇用対象は26歳未満に限られる)で、組合との協議も国会での討論もなく制定された。しかし、CPEは「機会平等法」の一部(!)として提案され、大学・高校の冬休みと試験シーズンを狙って急いで国会で通そうとした(若者たちの反対運動を避けるため)せいか、左翼の討論引き延ばし戦術をおしきって国民議会で強硬に採決された2月9日以降、大学生・高校生の反対運動はどんどん広がった。1月に過半数が好意的だった世論も、3月に入ると6割近くが反対になった。30歳未満の層では8割が反対している。
こうして、3月7日のデモの人数は前回の2月7日から倍増し、各地の大学はつぎつぎとストや封鎖に入った(全国84大学の約半数)。「若者の試用期間を2年に恒久化させる契約なんて許せない。アパートは借りられないし、ローンも組めない」という意見ももっともな上、政府の強硬なやり方に「人をばかにしている」と感じた若者も多いようだ。サルコジに比べればネオリベ度が低そうでソフトなイメージのあったド・ヴィルパン首相の支持率は、世論調査で急降下した。
政府はそれでも譲らず、3月8日の晩、この法案は最終的に採択されたため、大学の封鎖はさらに広がった。3月9日と10日の晩には1968年の5月革命以来初めて、ソルボンヌの建物を学生たちが占拠した。学長は機動憲兵や機動隊を出動させ、カルチエラタンでは大勢の学生と機動隊が対立した。学生たちは力づくで排除されたが、この対応によって彼らの闘志はかえって強まったようだ。次のデモは3月16日、そして18日には労働組合との統一デモが予定されている。
フランスでは1986年と1994年に、大学生・高校生の運動によって保守政権の法案が撤回されている。今回、社会学者などは「最近の若者たちは個人主義が強くて分断されているから、大きな運動にはならないだろう」と見ていたが、予想が外れて大勢の学生・高校生が運動に加わった。昨年の高校生運動のときも政府は、「一部のマニピュレートされた政治的危険分子による運動」だと喧伝したが、今回も学生の運動を必死で矮小化し、暴力的・反民主的だと非難している。政党を信用せず、政治には無関心といわれる今の若者たちが大勢行動を起こしたのは、切実な将来への不安によるものだろうから、彼らを暴力的分子だと誹謗すればするほど政府への反感は強まるだろう。
昨年の「暴動」のときと同様、若者の反抗を徹底的に犯罪化する保守権力の対応は何十年、何世紀たっても一貫して変わらないが、定期的に若者たちから大きな抗議運動が起きて、権力に対する抵抗の文化が受け継がれていくのが、この国のおもしろいところだ。今回のスローガンの傑作は、「鳥インフルエンザ予防のために、鶏(警官のこと)は家に帰れ!」。ソルボンヌにたてこもった学生の中には、置いてあったピアノでバッハのゴルトベルク変奏曲を弾いて、場の雰囲気を和らげた人がいたという(リベラシオン紙より。こういう報道があると、「外部の暴力的分子による破壊」といった学長の言葉を量る材料になる)。メディアに暴力的イメージを流されて怒った学生たちは、総会で「非暴力」を採決し、メディアに対応する広報委員会を設けた。
彼らの運動がどのくらい政策に影響を与えるかはまだわからないが、首相は3月12日の晩にテレビで、改良は加えるがCPEは撤回しないと述べたため、大学のストや占拠はさらに広がり、高校、父母組合にも運動は波及してきた。ソルボンヌの学長とちがってナント、トゥールーズ、ナンテール(パリ第10)大学など数人以上の学長が、政府に法案の撤回と学生側との交渉を求めており、学生の運動が労働組合、再燃している俳優など芸能部門の非常勤従業者(アンテルミタン)の運動、そして広くネオリベ政策に反対する市民運動に結びつく可能性も出てきた。フランス・ガス社の合併・民営化に反対する電気・ガス部門の合同ストは、23日に予定されている。左翼政党も元気を回復した感じだ。
この国の若者たちには力がある。写真に映った彼ら(女の子もすごく多い)の表情を見てほしい。

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