ワールドカップの悪い噂
パリにて
5月9日は「ヨーロッパの日」だそうで、市庁舎前広場にEU25か国のアーティストが創作した25の星が設置された。去年の今頃はEU憲法条約の国民投票を前にして、さかんに議論が交わされていたが、フランスの政治機構は今、ヨーロッパのことなどふっとんだ感じの混乱状態だ。サルコジ内相ほか大物政治家数名を財界スキャンダルにおとし入れようとした偽造書類たれ込みの件で、首相や大統領が国の諜報機関を濫用した疑いが発覚し、大騒ぎになっている。それが本当だったら、内閣更迭どころか大統領辞任に値するウォーターゲート級の事件だと思うのだが、ド・ヴィルパン首相とシラク大統領は、なにがなんでも現在の権力の座にとどまろうという姿勢だ。30年来最悪の政府と前に書いたが、シラク政権断末魔の叫びと言うべきかもしれない(でも辞任しないだろうな)。
そんな醜態を書く気にもなれないので、1か月後に迫ったワールドカップの話でもしよう。IOC(国際オリンピック委員会)の収賄システムを暴いたイギリス人ジャーナリスト、アンドリュー・ジェニングス(邦訳:『オリンピックの汚れた貴族』サイエンティスト社、ヴィヴ・シムソンとの共著『黒い輪』光文社)が、今度はワールドカップ開催組織のFIFA(国際サッカー連盟)の収賄システムや収益の不正分配などを暴いた『ファウル!』という本を上梓した。ヨーロッパ数か国で発刊されたが、ブラッター連盟長の本国、FIFAの本拠地スイスでは発禁になり、ワールドカップの開催国ドイツでは出版社がつかなったという。オリンピックと同じで、開催国(都市)は多額の金(市民の税金)を使ってイベントに貢献するが、大部分の収益をスポンサーと主催組織の一部のメンバーに貪られてしまうという、まことに忌まわしい現実が描かれているらしい(www.playthegame.org/upload/andrew_jennings_-_hiding_the_bribes.pdf)。これについてはいつか、専門の佐山一郎さんにでも書いてもらうことにして、最近メールでまわってきた「買春はスポーツではない」という署名運動を紹介しよう。
ドイツは2002年に売春を合法化したが、ワールドカップに際して4万人もの女性が中央・東ヨーロッパから性サービス用に「輸入」されると予想されているため、既成の合法施設ではまかないきれないと、ベルリンの競技場の隣に売春施設がつくられた。コンドーム、シャワー・駐車場完備の「パフォーマンス・ボックス」と称する専用小屋が3000平米の敷地に立ち並ぶ。そこで、「女性売買反対同盟(CATW)」というNGOがキャンペーンを始めたものだ(http://catwepetition.ouvaton.org/php/index.php)。ヨーロッパ開催のワールドカップ用だから、9か国語の署名運動である。欧州議会では4月にスウェーデン(売春禁止国)の議員がこの問題をとりあげて、具体的な対策を迫った。欧州議会は3月15日に「スポーツ・イベント時の強制売春」予防をよびかける決議文を採択したが、真剣に対策が打たれているとはいいがたいからだ。アムネスティー・インターナショナルも4月26日に声明を出している(http://web.amnesty.org/library/index/engACT770082006?open&of=eng-373)。
問題はとりわけ、ほとんどの「売春婦」がマフィアによって貧しい国から連れてこられることだ(ウェイトレスの職だよとか言われて……何かを思い出しませんか?)。サルコジ流には「移民の選択、季節労働」とか言われてしまうのかもしれないが、ワールドカップが終わったあと彼女たちはどうなるのだろう?
日本のおとなしくお行儀のいい(とヨーロッパからは見える)サポーターにはぴんとこないかもしれないが、サッカーの周辺にはフーリガンや国粋主義、人種差別の問題がかなり目立つのですっきり楽しめない面がある(人種差別問題についてはまたの機会に書きます)。伝統的に男ばかりの集団が興奮して酒が入ると、たががはずれて罵言、暴力、差別意識が噴出するらしい。で、金と暴力、差別の次は性奴隷問題。FIFAをはじめサッカーの協会・組織は金儲けばかりに執心せずに、これら周辺の問題にちゃんと取り組むべきだ。サッカーが本当に好きならば。

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市庁舎前広場に飾られたヨーロッパ25の星
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