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先見日記

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2008 Jan 14
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沖縄ではあり得ない
横浜郊外の仕事場にて

 久しぶりに(とはいえ、前回から3ヶ月しか経っていないのだが)沖縄へ行った。日中の気温は26度、空が黒い雲におおわれたかと思うとにわかに雨が降り、それまでたまっていた湿気と熱気は、30分ほどの豪雨で一気に消え去った。那覇の街中で天候が激変する様子を見届けた僕は手を上げてタクシーを拾い、歩くにはやや遠い宿泊先のホテルの名を運転手に告げた。車内には、ほのかに煙草の残り香がしていた。

 タクシーでこの香りに触れるのは久しぶりだと思いながら、客席の目のまえにある灰皿にふと目が行った。もちろん禁煙のマークなどなく、それは同様にドアにも車内の他の場所にも貼られていなかった。ちなみに僕は煙草を吸う人間だが新幹線に乗るときは必ず禁煙車を指定するし、レストランでも食事を終えるまでは煙草を口にする気にあまりなれない。ましてタクシーで煙草を吸うなどということは滅多にないのだが、このときばかりは急に吸ってみたくなり、運転手に声をかけた。すみません、煙草を吸ってもいいでしょうか。

 すると運転手は「お客さん、どこからね?」と尋ねてきた。喫煙の許可を求められることなど、普段はあまりないのだろう。僕が横浜から来たことを告げると、彼は「沖縄ではタクシーでもばんばん煙草を吸っていいからね」と快活に言った。

「テレビで観たけれど、神奈川も東京もタクシーでは喫煙が全面禁止だってね」

「公共の場ですから、それも仕方のないことだと思います」

「吸うとどうなるの? 逮捕でもされるの?」

「それもあるみたいですよ」

 彼は冗談のつもりで逮捕のことを口にしたらしく、「ひゅーっ」と驚いた声を出して「そんな社会に生きていて、息苦しくないかねえ」と言った。「あれもダメ、これもダメ。沖縄では考えられないねえ。タクシーで煙草が吸えなくなる日が来るなんて、沖縄ではあり得ないことだね」

 本当にあり得ないことかどうかは別として、しかし何の根拠もないまま自信満々に彼は言い放った。沖縄が公序良俗を気にしない大らかなルーズさを持つという意味をこめて言ったのか、それとも沖縄はそこまで管理化される土地柄ではないことに自負を持って口にしたのか、どちらとも取れる言い方だった。しかしタクシーで煙草が吸えない土地柄に対する羨ましさや共感は何ひとつない様子で、おそらく後者の意味をこめたのだろうと僕は思った。

 煙草を吸い終えた僕は窓を閉めながら彼に訊いてみた。ということは、運転手さんも煙草を吸われるのですか。すると彼はほんの少しだけ後ろを振り返って嬉しそうな口調で言った。

「吸いませんよ。まえは好きだったけれど、体に悪いだけだから止めたよ。でもね、なかには吸いたい人だっているんだ。そういうのを逆に全部無視するっていうのもどうかね」

 個人的には、タクシーにおける喫煙の禁止は僕も賛成なのだが、彼の言い分もよくわかる気がした。彼には彼の沖縄人としての小さな自負や誇りのようなものがあり、テレビの画面に映し出される遠い国の出来事を、どこか冷ややかに見つめていたのだろう。このとき煙草はひとつの象徴でしかなく、白黒をはっきりとつけることで社会が窮屈になるのが、彼には生理的に受け容れられないように思えた。子供にGPS機能付きの携帯電話を持たせることなど一般化していないばかりか、まだ想像もつかない社会に、彼は変わってほしくないのに違いなかった。

End

















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