個人の手軽な情報発信手段として急速に普及しているブログ。一方で、ブログのビジネス的価値は、まだまだ未知の要素が大きい。ビジネス・ブログは、IT系企業の社長など企業内個人が不特定多数へ直接メッセージを送る手段として用いられることが多かったが、最近では、特定の商品やサービスを軸にした情報発信にブログを使うサイトも登場している。情報発信、サイトへの集客手段、マーケティングツール。さらに老舗百貨店三越の場合は、「コミュニティ形成の手段」という、ひと味違ったアプローチをしている。ビジネス・ブログのもうひとつの可能性を探る試みとして注目したい。
1904年、株式会社三越呉服店が、多種多様な商品を取り揃える近代的な「百貨店」を目指すと宣言してから、ちょうど100年経った。三越が本店をおく日本橋界隈は再開発が進み、多様なショッピングの拠点が出現して、競争は激化するばかりだ。日本橋三越は新館を建設し、新たな百貨店づくりに取り組んでいる。
次世代の百貨店はどのような役割を担うべきか。
「お客さまのニーズに応えるために、常に自ら変化するのが三越の伝統です。次世代の百貨店像においても、主役はお客さま。百貨店は、お客さまのライフスタイルを豊かに彩るためのサポート役に徹することが重要だと考えています」と、株式会社三越 営業企画本部 ゼネラルマネジャー 金沢春康氏は言う。
「ライフスタイルを提案してゆくには、従来のマスマーケティングに加えて新しい方法も検討すべきではないかという思いが生じました。消費者の個別ニーズに密着し、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを実践するためには、小規模で親近感に満ちた双方向のコミュニティの形成が有効なのではないかと考えたからです。」と金沢氏は続ける。
2004年10月、日本橋本店の新館オープンと同時に、新館7階に設けたのが、三越コミュニティサロン(MCS)である。ノートPCが使える広々としたスペースを確保して、おしゃべりやインターネットを楽しめる、コミュニティ形成の場だ。
リアル店舗でのサロンがスタートすると同時に、インターネット上のバーチャルなサロン「MCSサイト」もスタートした。リアルとバーチャルの両面で、コミュニティ作りを進めているのである。
「ITは、ワン・トゥ・ワン・マーケティングを行うための重要な武器ですが、リアル店舗とリンクさせてこそ、三越らしい双方向のコミュニティサービスが可能になる」と、金沢氏は言う。
MCSサイトがもうひとつ注目されるのは、ブログのもつ可能性を探る場にもなっている点である。
ブログとはウェブログ(Weblog)の略称で、「ウェブ上に残される記録」という意味だ。インターネットで自ら情報発信者になりたいという場合、従来はホームページを立ち上げるのが一般的だった。しかしホームページ作成ツールは使いこなしがむずかしく、見栄えの良いものを作ろうとすればHTMLのプログラミング知識も必要になったりするため、誰でも気軽にホームページを立ち上げるというわけにはいかない。これに対してブログは、メニューを選択して部品を集めていくだけで、文字や写真で構成される情報発信ページを簡単に作成できる。日付の順番に記事が表示されるため、日記の感覚で思いついたことを書き込んでいくだけで済むのも手軽なところだ。
MCSサイトは、百貨店からの情報発信「感動百貨店日記」、コミュニティからの発信「倶楽部日記」、会員個人からの発信が柱になっているが、この3つともがブログを活用している。
感動百貨店日記は、三越本店のさまざまな売り場の担当者による日記形式の情報発信である。単なる売り場の紹介ではなく、担当者の個人的な趣味や経験がにじみ出るコメントが好評だ。MCSサイトの登録会員は、これらの情報にコメントをつけたり関連する話題を書き込んだりできる。現在23ショップの担当者が、発信者になっている。
倶楽部日記は、同じ趣味のもとに集まった会員たちのコミュニティスペースである。プロの写真家を中心に撮影会なども活発に行っている写真倶楽部のほか、マジック、食などをテーマにした倶楽部が活動している。
金沢氏らがブログの存在を知ったのは、2003年頃であった。
「かねてより携帯電話を使った情報発信型マーケティングについてNTTデータのスタッフと情報交換を行っていました。NTTデータはクチコミマーケティングなど、新しいメディアに関する研究にずいぶん早くから取り組んでいたからです。さらに、ソーシャルネットワークとブログの研究を始めたというので、私達のめざすコミュニティ作りに生かせないかと、共同で検討を進めました」(金沢氏)。
従来のオンライン掲示板は、特定のテーマを中心に人が集まる。テーマに関する興味深い内容を見る事ができる一方で「個」が何を考え、何を指向しているかを読み取ることは難しい。しかし、ブログは、発信者個人が作り出すページを中心に様々な話題が展開され「個」の特徴が見えやすいため、ワン・トゥ・ワン・マーケティングの材料として高い可能性を有していると考えられる。
NTTデータは、こうしたブログの特性が、新しいビジネススタイルに大きく貢献するものであるということに注目。ブログを使いこなすことそのものを目的にするのではなく、コミュニティを作り、そのコミュニティからビジネスバリューを引き出す方法を研究してきた。コミュニティをワン・トゥ・ワン・マーケティングにつなげていきたいという三越にとっては、最適なパートナーだったと言える。


